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草食の話

光を受けてぴかぴかに輝く艶やかな緑。みずみずしく弾力に揺れる葉っぱ。どこまでも伸びて行く細くて長い葉脈たち。鮮やかな青い色はまるでよく磨かれた宝石のように眩く煌めいている。
豊かなターフタウンの自然の中で生き生きと育った自慢のうつくしい緑をどっさり束にして、ヤローはセキタンザンに差し出した。
セキタンザンが相棒の顔を覗くと小さく頷いて、セキタンザンは黒い石炭の掌で掴める束を握りしめた。セキタンザンは大きな口を開き、真っ赤に燃える口の中に放り込み、黒い石炭の口でごりごりと磨り潰すように咀嚼した。
嬉しそうに笑うと身体が揺れて、溢れた石炭がひとつふたつと零れ落ちていく。

「美味しいですか」

セキタンザンが呑み込んだ様子を伺って、ヤローと同じベンチに座っていたマクワが声を掛けた。
ヤローの経営する農場の片隅、畑を繋ぐ道端の広い茂みの上で、セキタンザンが座りながら味見をしていた。
セキタンザン食事用の植物を購入する為、時々ヤローの元へ来るようになったのはいつの事だっただろうか。マクワは形のよくないものや、実の葉の部分などの売れないもので構わないと言ってくれていて、ヤローとしても市場に出せないものを言い値で買ってくれることはありがたかった。
でもなにより。

「シュポォ!」
「それはよかったなあ」

ターフタウンのうららかな陽ざしに乗って、のんびりと笑った。セキタンザンの笑顔が見られたのだ。それだけで長い時間をかけて育てた自慢の植物たちとのお別れさえも、何より素敵な物に変わっていく。形が良くなくても、売れなくても、他の子たちと一切変わらない手間暇の掛かった子たちだ。

「ヤローさんが作って下さった物ですよ。当然でしょう。味の確認のつもりでしたが、これで良さそうですね、ありがとうございます。……しかしここでそこまで食べなくてもよいのに」
「でもタンドンもセキタンザンも、ずっと洞窟の中にいるわけじゃないでしょう? ターフタウンはお日様に近くていいんじゃ」
「シュ ポォー!」
「ほらセキタンザンもよろこんどるじゃろ? 気をつかわんとゆっくりしていってください」
「確かに……そうですね。ターフタウンは鉱山にも近いですし……きっと懐かしい空気が吸えると思います」

セキタンザンは、新鮮なマトマの葉っぱの味に夢中になっているのか、口に入れるペースが速いわりに、咀嚼している時間がゆっくりだ。味わってくれている様子は、ヤローにとっても嬉しい事だった。
水筒からお茶を汲んで、マクワのコップに注ぎ足した。

「しっかし……何回知っても面白いなあ。ぼくにはセキタンザンが植物を食べるなんて想像できんかった」
「ぼくもです。……でも石炭は元々太古の植物が化石になったものらしいのです。だから植物を摂取することで石炭を生成するのは当然なのかもしれません」
「へえ! そんな繋がりがあったんじゃなあ マクワくんはものしりじゃあ」

マクワは俯いて、サングラスを直した。それから小さくお礼を言うと、コップに口を付けた。

「これくらいは……当然です。それにぼくは植物の事は……全然ですし」
「いやいや、ぼくもほんの一部を知っとるだけですよ。でもその一部を知ってるだけで十分こうしてみんなのお役に立てるなら……立派なもんかな、なんてね」
「そうですよ。ヤローさんはその……本当に……流石です。ぼくには真似できない事がたくさんあります……いえ、悔しいので頑張って真似はしてみせますが!」
「マクワくんは努力家だなあ」
「……そんなことは」

温かな風が流れている。ふとヤローはマクワの方を見た。サングラス越しの丸い目が、緩やかに弧を描いて、今にも落ちそうだ。
その先にいるセキタンザンはやっぱりまだごりごりと葉っぱを食べていて、試合で対峙した時の猛々しさは身を潜めていた。
マクワもそうだ。スタジアムで立つあの飄々とした笑顔の裏には、いつも極寒に似た怜悧な冷たさがあった。

「ヤローさんだって。ぼくが何も言わなくても……こうしてセキタンザンが喜ぶものをくれますから」
「……いやあ……何も考えとらんかったです。ただ喜んでくれそうなものを集めただけで……」
「天然ですか? ずるいですよ」
「えへへ……」

ヤローは思わず頭を掻いた。マクワの瞳は相変わらず優し気なままバディを見つめていた。
この柔らかくて少しだけ尖っていて、でも日差しに満ちた時間を彼らとともに共有できるのなら。
次もまた立派にマトマと葉っぱを育てよう。今度はさらに喜んでくれそうな種類の葉と共に送り届けたいが、どれがいいだろう。
やはり辛い系の木の実のものが良いだろうか。
タンドンの頃は鉱山の近くの葉を食べていたそうだが、鉱山の葉っぱに近い物が喜ぶだろうか。
ターフタウンの農場の真ん中で、さっそく次のぴかぴかを考え始めるのだった。