サンクスデイ

丁寧にラッピングされたクッキーの小袋がある。よく見れば袋はずいぶんと厚みがあって、人の指では使いにくい。けれど石炭の黒い手はそれを手に取り、横に伸びる赤い紐を軽々と引っ張った。
内側からほんのりと甘く、香ばしい香りが零れてくる。もっとも嗅覚の弱いセキタンザンではあまり感じることのできない感覚だった。

「きみたちもぼくの『ファン』ですから……これはお礼です。そうでなければぼくについてきてくれることなどないでしょう?」

そう言い切りながら、マクワはポケモンたち一人ずつに同じ小袋を手渡していった。
最初に渡されたのは手が器用なガメノデス。その次は主張も力も強く、やや我慢の苦手なバンギラス。さらに小さな体のツボツボの前に置き、イシヘンジンの高い位置の手に持たせ、最後はセキタンザンの大きな手の上に乗せられた。

「今日、お菓子作りを教わってきました。その中でも少しだけ『特別』なものです」

袋をひっくり返せば、掌にちょこんと乗る小麦粉がきらきらした飴の周りをぐるりと巡る綺麗なお菓子。
普段食べることのない分、セキタンザンも身体が食べてみたいと欲するのがわかる。
しかし色のついたガラスのような飴細工の部分は、炎に弱いのか表面が揺らいでいるように見えた。少しだけ炎を弱める。

「……けど……ぼくが……ぼくこそがきみたちの一番の『ファン』……でもありますからね。
これからも……一番隣にいさせてもらいますから」

サングラス越しにマクワが微笑んでいる。
セキタンザンはひとつそのクッキーを口の中に放り込んだ。
甘い香りが口を越えて、あっという間に体の中に広がった。
その時なぜか思い出すのは、彼の母親メロンの笑顔だ。
幾度かメロンさんが手作りしたものを、食べさせてもらったことがあった。似ている。
ああ、彼のこのお菓子作りの腕は、その味覚は、あの温かな親に培われたものに違いない。
彼女から教わったわけではないだろうが。
背中の炎が大きく燃えて、思わずマクワに黒い手を伸ばす。
ふわふわした身体が両腕の間に入る不思議な感覚が、違う生き物と触れ合える刹那が、セキタンザンは好きだった。

「こら、近いです……むぐ」

そして小袋に入ったクッキーを一つだけマクワの口の中にも同じように放り込んでみた。がり、と砕ける音がする。

「ぼっ、ぼくは……べつに……。んぐ……おいし……よかった……。……ああ、いや、当たり前ですけど……」

マクワはもごもごと俯きながら、残りのクッキーを咀嚼して飲み込んだ。

「か、勘違いしないでくださいね。ぼくだって……。……きっといつか」

その『いつか』が何を描いたのか、セキタンザンには知り得ない。
けれど彼の目線の先には光が、温かいものが、きっとある。
ここにいる皆でそこにたどり着きたい。
セキタンザンは願いを込めて汽笛のような声を上げるのだった。